幹細胞培養上清液療法

1994年より名古屋大学医学部口腔外科学教授に就任された上田実現名誉教授は数多の動物実験を経て、幹細胞の培養上清液による組織再生効果を見出したのをきっかけに、臨床応用がなされ、2016年に乳歯幹細胞培養上清によるヒト歯槽骨の再生を世界で初めて報告しました。2017年には、脳梗塞・脊髄損傷に対して培養上清液のみを投与したところ、幹細胞の移植と治療成績が同等であったと報告しています。このころから、実際の治療に応用する動きが広まり、骨、皮膚、及びアトピーなどのアレルギー疾患にも有効である可能性が示され、現在では、更に糖尿病、心筋梗塞、間質性肺炎、肝炎、自己免疫疾患などに応用されるようになりました。そのメカニズムですが、ヒト由来の歯髄、脂肪、臍帯、羊膜、骨髄に存在する間葉系幹細胞を培養すると、炎症を抑えたり、傷んだ組織を修復したり、毛細血管を増やしたりするサイトカインを大量に産生します。これらのサイトカインが病気で障害を受けた部位の細胞を増殖させて、効果を示すと考えられています。

間葉系幹細胞の種類による培養上清液の特徴

脂肪幹細胞

脂肪幹細胞は、脂肪組織を生体から容易に採取しやすく、かつ安定的に入手できるので、多くの施設で臨床応用されています。特徴としては組織の再生に関わるサイトカインが多いので、様々な疾患に適用されています。当院で採用しているのもこのタイプの幹細胞です。

臍帯幹細胞

臍帯幹細胞は安定的に手に入れることが脂肪幹細胞より困難であるため、限られた施設で臨床応用されています。脂肪幹細胞の培養上清液と比較して細胞増殖、抗炎症作用の強いサイトカインを多く含みます。特にコラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸の合成が高まり、美肌効果に良いとされています。

歯髄幹細胞

歯髄幹細胞は子供の乳歯から採取したもので、細胞増殖に関連するサイトカインを多く産生するため、再生増殖能が高く、培養上清液中のサイトカインも大量に得ることができます。特に神経再生に関わるサイトカインが多いと言われており、特に脳梗塞、血管障害、歯周病、コロナ後遺症(ブレインフォグ)、認知症によいとされています。点鼻による治療を行います。

羊膜幹細胞

羊膜上皮幹細胞は胎児由来のため、間葉系幹細胞の中でも増殖性が高く、免疫抑制作用が強いと言われております。検体も容易に得やすく、大量培養ができるので、上清液も容易に得られます。特に炎症性疾患(肝炎や心筋炎)に対する効果が注目されています。

骨髄幹細胞

骨髄幹細胞は神経細胞に分化する性質が強く、神経再生能も高いと言われています。しかし、骨髄を採取する技術と経験を要し、しかも幹細胞の含有率が低く、幹細胞の培養技術も難しいため、一般のクリニックではあまり普及していないのが現状です。

一般にこれら間葉系幹細胞は継代培養していくうちに幹細胞表面にある免疫反応を促す抗原が消失していくため、他家(他人)あるいは自家(自分)の幹細胞が産生したサイトカインにアレルギー症状を呈することは無いと考えられています。
実際には自分の皮下脂肪や骨髄から自家の幹細胞を採取することは手間がかかり、痛みを伴ったり、傷からの感染の危険性があるため、他家の培養上清液を使用しています。

当院では他人の細胞を用いるため、検体は出所のはっきりしている日本人からの厳正な感染症検査にパスしたものだけを厚生労働省の認可した細胞培養施設(CPC)で培養した上清液を採用しております。従って、高い技術で作製された安定した品質の上清液を短期間に大量に供給することができるので、自己の脂肪幹細胞治療と比較して、コストも抑えることができます。
ただし、他家の幹細胞培養上清液を投与された場合注意する点は、未知のウイルスの感染症の否定ができないことから、一般的に献血ができなくなることです。

上清液に含まれる主なサイトカイン

サイトカインは感染、炎症などの刺激に応じて細胞から分泌される低分子のタンパク質因子です。ごく微量で様々な生理活性(免疫・炎症反応の制御、抗菌・抗ウイルス、抗腫瘍、細胞増殖・分化の調節)を示すだけでなく(多能性)、以下に示すよう同じ機能を示す複数のサイトカインが存在します(重複性)。炎症性と抗炎症性サイトカインがあり、前者は主に抗菌・抗ウイルス作用と傷害を受けた組織の修復(血管新生や細胞増殖)に関与する一方、後者は過剰な炎症反応を抑えるための免疫制御に関与します。リウマチなどの自己免疫疾患は両方のサイトカインのバランスが崩れ、炎症が優位になった時に引き起こされます。

血管新生に関わる主なサイトカイン

血管内皮細胞増殖因子(VEGF)

血管内皮細胞の増殖を促進し、新しい血管を形成します。毛乳頭細胞においては血行を改善し育毛、発毛を促します。

血小板由来成長因子(PDGF)

損傷組織の血液凝固部位の血小板から分泌されるペプチドで、損傷組織の増殖再生を促進する。

血管新生因子(Angiopoetin-1)

血管のないところに血管を形成したり、元々ある血管から枝が伸びて新しい血管を形成する役目を持ちます。

塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF/FGF2)

真皮の線維芽細胞の分裂を活性化させ、コラーゲンや損傷した組織の再生を助けます。皮膚老化防止、皮膚や毛髪の再生効果が期待できます。

単球遊走因子(MCP-1)

血管内皮細胞上のレセプターに結合し、炎症を起こすことにより血管新生を引き起こします。単球、マクロファージ、血管内皮細胞、繊維芽細胞などから分泌され、単球の遊走を活性することにより、動脈硬化病変のマクロファージ浸潤に関わるとされています。

エリスロポエチン(造血因子)(EPO)

幼弱な赤血球の分化増殖を促進します。





肝細胞増殖因子(HGF)

幹細胞をはじめ、様々な細胞の増殖促進作用に加え、アポトーシスを抑制し、線維化を抑える働きがあります。器官形成や傷害組織の修復にかかせない因子です。

インターロイキン―6(IL-6)

IL-6(インターロイキン-6)はさまざまな刺激によって免疫細胞などから産生されるタンパク質です。血管新生作用を始め、様々な生理作用を有しており、ある種の白血球、および肝臓での急性期タンパク質の産生を刺激して、急性期反応を起こします。この反応は病原体(細菌やウイルス)を中和し、それらの体内への侵入を防止するとともに、組織損傷を最小限に抑えます。またB細胞がIg分泌細胞に最終分化するために不可欠な役割を果たします。IL-6は免疫応答や炎症反応の調節において重要な役割を果たしており、生体の恒常性(安定した状態)の維持にとても重要です。

細胞増殖

角化細胞増殖因子(KGF)

線維芽細胞によって産生され、上皮細胞の分裂を促進します。毛髪や皮膚が再生される際に必要なケラチンの生成を補佐します。

インスリン様成長因子(IGF)

種々の組織で産生され、成長促進作用、インスリン様作用、細胞の増殖、分化の促進など多様な作用を有するペプチドです。

幹細胞因子(SCF)

SCFは、c-Kit(CD117)として知られる受容体に結合し、造血幹細胞の生存および維持に重要な役割を担っている造血細胞成長因子ですが、脱毛防止やメラニン産生を刺激して、発毛を促します。




白血病阻止因子(LIF)

LIF(Leukemia Inhibitory Factor/白血病阻止因子)は、白血病細胞の増殖を阻害し、マクロファージに分化誘導する因子として発見されました。正常な白血球細胞および骨髄性白血病細胞における造血分化の誘導、神経細胞分化の誘導などに関与する多機能サイトカインです。さらに、母-胎児間インターフェイスでの免疫寛容において役割を有すると言われています。

マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)

単球、マクロファージ系前駆細胞の分化・増殖を促進し、単球の殺菌能を刺激します。細胞の増殖、分化および活性化に必要なサイトカイン


間質細胞由来因子(SDF-1)

SDF-1は白血球やリンパ球の細胞遊走を主要な作用とするサイトカインです。
血管新生の項で上述した、VEGF、PDGF、bFGF/FGF2、HGFも細胞増殖を引き起こすサイトカインです。

抗アポトーシス

顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(G/M-CSF)

造血幹細胞の顆粒球、マクロファージ、好酸球、好塩基球への分化増殖を促進します。



STC-1

STC-1(Stanniocalcin-1)は,Stanniocalcinファミリーに属する分泌型の糖タンパク質で,卵巣,前立腺,甲状腺,腎臓,大腸などの多くの器官で発現しており,カルシウム調節のほかに抗アポトーシス作用があると言われ、成長,増殖,分化などへの関与が報告されています。

トランスフォーミング増殖因子(TGFβ)

主に免疫抑制的に作用する抗炎症性サイトカインで、リンパ球の増殖、分化を抑制し、NK細胞活性を抑制します。その結果、免疫応答、炎症反応、造血が抑制されます。一方、細胞外基質タンパクを産生し、分解酵素を抑制するとともに、上皮細胞や血管内皮細胞の増殖や新生を促進し、創傷治癒を早めます。トランスフォーミング増殖因子(TGFβ)、マクロファージ、好酸球、好塩基球への分化増殖を促進します。

インスリン様成長因子(IGF)

アポトーシスを抑制して,細胞の生存を促進し,幹細胞の分化増殖を促進して,細胞再生に寄与することが知られています。
血管新生に関わるサイトカインであるFGF2, VEGF, IL-6, Ang-1, EPO, HGF , MCP-1は一般的に抗アポトーシス効果も併せ持つことが分かっております。



肝線維化の抑制

インターロイキン10(IL-10)

免疫系細胞からのサイトカイン産生を直接制御する抗炎症性サイトカインです。炎症を抑制することにより様々な組織の線維化を抑ええる働きがあります。

腫瘍壊死因子(TNFα)

炎症性サイトカインの代表格で、単独では他の炎症性サイトカイン(IL-6など)を誘導しますが、IL-1aと共刺激した場合I型コラーゲン分解酵素の発現が亢進し、線維化を抑制します。

マトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP-9)

主に造血系細胞などから産生され、IV型コラーゲンを分解し、線維化を抑制します。

HGF

既出


免疫抑制作用

インドールアミン酸素添加酵素(IDO)

IDOはT細胞のトリプトファン分解を促進することでキヌレニン経路を阻害し、T細胞の増殖を抑制する一方、制御性T細胞(Treg)を誘導して免疫寛容に導きます。


ヒト白血球抗原G5(sHLA-G5)

HLA-G5は、正常なヒト胎盤の絨毛外栄養膜細胞、胸腺上皮細胞及び角膜により発現される分子です。HLA-G5が制御性T細胞の分化を誘導したり、抗炎症性のヘルパーT細胞を増殖させることも示されており、間接的に免疫を抑制します。

LIF , TGFβ

前出

HGF

HGFのもう一つの作用としてT細胞(CD4,8陽性細胞)の増殖を抑制し、免疫抑制します。

炎症鎮静作用

腫瘍壊死因子誘導性遺伝子6(TSG-6)

炎症を抑えるほか、動脈硬化に対する治療薬として着目されている成長因子。組織の線維化を抑制するだけでなく、古い繊維を壊し、新しい繊維を作る作用があります。軟骨保護作用もあります。

ヘム分解酵素1(HO-1)

肝臓、脾臓、脳、皮膚、マクロファージ、心臓に局在しており、抗酸化・炎症作用を有するだけではなく、抗炎症性サイトカインであるIL-10(前出)の産生を増強し、炎症細胞浸潤や組織破壊を抑制し、細胞を保護します。

ガレクチン-1(Gal-1)

強い免疫抑制性因子であり、かつ抗炎症因子であると報告されています。特にヘルパーT1細胞から放出されるサイトカイン(TNFαなど)の生成を阻害し、ヘルパーT2の反応を抑制する働きを持ちます。



インターロイキン1受容体阻害タンパク(IL-1RA)

IL-1raは、IL-1のレセプターへの結合を競合的に阻害することにより、炎症性サイトカインであるIL-1活性を抑え、炎症反応が抑制される可能性があります。関節リウマチ、敗血症ショック、急性骨髄性白血病、炎症性腸疾患などIL-1が大量に産生されている病態でIL-1ra投与すると病態が改善することが報告されています。

LIF

LIFはIL-6サイトカインファミリーに属しますが、IL-6受容体を拮抗することで、Treg:TH17比を増加させ、抗炎症作用を示す性質もあります。

インスリン様成長因子(IGF)

種々の組織で産生され、成長促進作用、インスリン様作用、細胞の増殖、分化の促進など多様な作用を有するペプチドです。

幹細胞上清液投与の適応疾患

  • 更年期の不定愁訴
  • 慢性疼痛(関節リウマチ、神経障害性疼痛、がん性疼痛など)
  • 変形性関節症
  • 脱毛症
  • アトピーなどのアレルギー性疾患
  • アンチエイジング
  • 疲労回復、持久力増強(アンチドーピング)
  • 心筋梗塞後心不全
  • 脳梗塞後遺症
  • 軽度認知障害
  • 非アルコール性脂肪性肝炎
  • 新型コロナ感染症後遺症(間質性肺炎、慢性疲労症候群、ブレインフォグなど)

法定記載事項

  • 本治療は医薬品医療機器等法上の承認を得ていないため、医療保険制度は使用できません。自費診療となります。
  • 幹細胞培養上清療法に使用する幹細胞培養上清は未承認医薬品です。
  • 幹細胞培養上清療法に使用する幹細胞培養上清は、国産のものと海外産のものがあります。いずれにおいても、各医療機関が医師の責任のもと、購入・輸入した製剤を、院内調剤(もしくは一部外部委託)して使用します。
  • 本治療に使用できる同一の性能を有する他の国内承認医療機器・医薬品はありません。
  • 諸外国においても重大な副作用・リスクに関する報告はありません。

投与経路

上清液の投与経路は症状や疾患に合わせて、筋肉注射、点滴静脈注射、点鼻吸入を選択します。投与回数は重症度や治療目標によって変わりますので、初回診察時にご相談いたします。費用に関してはHPを参照してください。

簡単WEB予約
pagetop