抗老化治療

NK細胞治療の項ではNK細胞を用いた抗老化治療について述べましたが、ここではその他の治療についてお話します。その前に、「老化」についておさらいをしたいと思います。

細胞老化は損傷を受けたDNAを持つ細胞の複製を防ぐことで、抗腫瘍効果の役割を果たしていると考えられています。老化は通常、テロメア短縮 (複製老化)、DNA損傷 (DNA損傷誘発性老化)、およびがん遺伝子の活性化 (がん遺伝子誘発性老化) に応答して起こります。

複製老化とヘイフリック限界

複製老化は、Hayflick博士が発見した、正常細胞をin vitroで培養すると約50回の分裂の後に増殖を止める現象のことで、ヘイフリック限界と呼ばれています。現在、テロメアの短縮が複製老化の原因であると考えられています。DNA複製が起こるたびにテロメア長は徐々に短縮され、最終的には臨界長に達します。すると複製が妨げられ、細胞分裂が止まります。キャップ構造を持たない非常に短いテロメアによってDNA損傷応答が開始され、細胞老化が誘導されます。

DNA損傷によって誘導される細胞老化

DNAの損傷は、損傷の程度と生理学的状況に応じてDNA修復やアポトーシス、細胞老化を誘導します。老化細胞の特徴として、慢性的なATM (Ataxia Telangiectasia mutated)、ATR (Ataxia Telangiectasia and Rad3 related) キナーゼシグナルの活性化など、持続性のDNA損傷応答 (DDR) が挙げられ、これらが最終的にp53/p21、p16/pRbを介して細胞周期の停止と細胞老化を引き起こすと考えられています。電離放射線、化学治療、遺伝毒性ストレス、酸化ストレスなどが持続性のDNAの損傷とそれに続く細胞老化の原因となります。

がん遺伝子によって誘導される細胞老化

細胞老化は、がん遺伝子の活性化によって細胞の自律的な抗がん機構として誘導されます。がん遺伝子の活性化によって細胞が形質転換し、がん化するのを防ぐため、細胞の老化が起こると考えられています。がん遺伝子によって誘導される細胞老化 (OIS:oncogene-induced senescence) は、原がん遺伝子H-Rasの異常な活性化や、PTENなどのがん抑制遺伝子の不活化によって起こります。例えば、低分子量Gタンパク質H-RASのがん遺伝子型H-RASV12は、慢性的にp38 MAPKシグナル伝達経路を活性化してOISを引き起こします。強い分裂促進シグナルの活性化は、複製ストレス (DNA複製が一時停止した複製フォークを崩壊させる) を介してDNA損傷も誘発します。

細胞老化随伴分泌現象 (SASP)

上記のメカニズムのいずれかで老化した細胞の多くがSASP (Senescence-associated secretory phenotype) と呼ばれる炎症促進性の細胞非自律性表現型を獲得し、有益な効果と有害な効果の両方をもたらします。SASPは分泌されたサイトカイン、ケモカイン、増殖因子、プロテアーゼの複雑な混合物から成り、その組成は細胞や組織の状況と、老化を誘導した刺激により大きく異なります。この分泌現象は、老化細胞の近隣にある細胞や免疫系との情報伝達に寄与し、最終的には細胞の運命に影響を与えます。例えば、SASPは免疫細胞を老化細胞に動員して排除するため、この点において腫瘍に抑制的な機能を持ちます。しかし、SASPは血管新生や細胞外マトリクスのリモデリング、上皮間葉転換 (EMT) を促進する分子を分泌し、腫瘍を促進する機能を持つことも分かっています。また、老化細胞が誘導する慢性炎症は全身性の免疫抑制を誘導し、がんなどの疾患の発症に寄与する可能性があります。慢性的炎症は、加齢に関連した組織の損傷や変性を進行させる可能性もあります。
ここでもう一度誤解のないようにですが、細胞老化といわゆる寿命でいう「老化」とは必ずしも一致しないことに留意してください。細胞老化は若い人でも常に起きています。老化細胞を体から排除できなくなり、体内に蓄積してくると、老化細胞から出されるSASP因子ががんや生活習慣病を引きおこし寿命が短くなっていくのを老化と呼びます。抗老化治療とは老化した細胞を取り除いて、病気になりにくい体を維持していくことを目指した治療です。

抗老化治療薬

現在、様々な抗老化薬の候補が示されていますが、その中で比較的実用化が期待される安全性の高い薬物等を下記します。

Senolytic薬

老化細胞を標的として、老化細胞を選択的に死滅させる(SASP因子の発生源を断つ)

ダサチニブ

スプリセルで流通しています。元々、慢性骨髄性白血病(CML)やフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(Ph+ALL)の治療に用いられる分子標的薬(チロシンキナーゼ阻害剤)です。BCR-ABLタンパク質の働きを阻害し、白血病細胞の増殖を抑えます。副作用には骨髄抑制、胸水、出血などがあり、妊娠中は禁忌です。老化細胞やがん細胞にアポトーシスを誘導することが解っています。

ケルセチン

タマネギやリンゴ、ブロッコリー等に多く含まれる強力な抗酸化・抗炎症作用を持つポリフェノール(フラボノイド)です。主な効果として、血液サラサラ効果、血圧・コレステロール低下、動脈硬化予防、体脂肪減少が期待されています。特にタマネギの皮(茶色の部分)に豊富に含まれています。フラボノイド系ポリフェノールで、(PI3K/AKT/mTOR活性をブロックして老化細胞にアポトーシスを誘導する。また、強い抗酸化作用により活性酸素(ROS)を除去し、DNA損傷や細胞老化の要因を直接的に減らします。

フィセチン

イチゴ、リンゴ、柿、桑の葉などに含まれるポリフェノール(フラボノール)の一種で、高い抗酸化作用と抗炎症作用を持つ天然化合物です。特に、脳の炎症抑制、記憶力向上、血管の異常収縮(痙攣)の予防、さらに老化細胞を排除するセノリティクス(抗老化)効果が注目されています。PI3K/Akt/mTOR経路をブロックし、老化細胞にアポトーシスを誘導する(ケルセチンより強力)。SASP因子を抑制し、慢性炎症を軽減します。

SGLT-2阻害剤

腎臓で糖の再吸収を阻害し、尿から糖を排出して血糖値を下げる2型糖尿病治療薬です。腎の尿細管上皮に発現しるSGLT-2の働きをブロックします。体重減少、血圧低下、心不全や慢性腎臓病の進行抑制にも効果があり、心・腎保護作用が注目されています。主な副作用は尿路・性器感染症や脱水です。また、本薬剤はアデノシン1リン酸活性化蛋白リン酸化酵素(AMPK)活性化し、PD-L1発現が抑制されることにより、免疫細胞が活性化し老化細胞が除去されます。

Senomorphics薬

老化細胞が分泌するSASP因子の発生源を断つ

ラパマイシン

イースター島の土壌微生物から発見されたマクロライド系化合物で、強力な免疫抑制作用(T細胞/B細胞活性化阻害)を持つ抗真菌・抗生物質です。腎移植の拒絶反応予防やリンパ脈管筋腫症(LAM)の治療に使われます。mTORC1阻害作用があり、オートファジーを活性化して老化細胞を除去、そしてNF-kappaBのダウンレギュレーションを通してSASP因子を抑制し、抗炎症作用を示します。

メトホルミン

主に2型糖尿病の治療に用いられる肝臓での糖新生抑制やインスリン抵抗性改善を目的とした、経口糖尿病治療薬です。血糖値の安定、体重のゆるやかな減少がみられます。主な副反応は下痢や吐き気などの消化器症状で、稀に重篤な乳酸アシドーシスを引き起こすため、特に高齢者や腎・肝機能障害がある場合は注意が必要です。AMPKの活性化によりmTORを抑制。NF-kappaBの核内移行の減弱によるSASP因子を抑制します。

HDAC阻害薬

がん細胞で異常に活性化した酵素(HDAC)の働きを阻害し、がん抑制遺伝子の発現を促進させることで、細胞の分化や死(アポトーシス)を誘導する分子標的薬です。主に皮膚T細胞性リンパ腫などの血液がん治療に使用される、エピジェネティック調節剤の一種です。詳細は別項参照(別紙HDAC阻害剤に飛ぶようにお願いします)

SASP因子阻害薬

カナキヌマブ

炎症を引き起こす物質「インターロイキン-1β(IL-1β)」の働きをブロックするヒトモノクローナル抗体製剤です。主に、自己炎症症候群や全身型若年性特発性関節炎(SJIA)、成人発症スティル病など、慢性的な炎症を伴う難治性疾患の治療に使用されます。最近では本薬剤は慢性炎症の主要因子であるIL-1βを阻害することで、老化細胞の悪影響を抑える「セノモルフィック薬(老化細胞阻害薬)」の候補として注目されています。

老化細胞除去ワクチン

老化血管内皮細胞に発現するGPNMBという抗原を標的にして、老化細胞を除去します。糖尿病や動脈硬化、アルツハイマー病といった加齢関連疾患の改善や、健康寿命の延伸が期待されています。

CAR-T細胞免疫療法

老化細胞の標的化: 老化細胞に特有のタンパク質(ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター受容体など)を認識するように遺伝子改変したT細胞を投与します。 選択的除去: 投与されたCAR-T細胞が体内を巡り、周囲に炎症を引き起こす老化細胞だけをピンポイントで破壊します。 疾患の改善: マウスを用いた実験では、肝線維症の軽減や代謝機能の改善、さらには健康寿命の延伸効果が報告されています。

生物学的年齢(エピジェネティクス年齢)

抗老化治療の治療前後の評価に生物学的年齢を測定して効果判定を行っています。テロメア長測定は、直接、抗老化効果を反映するとされていないので、DNAメチル化を指標にしています。
    当院ではsenolytic, senomorphics薬を用いた治療を計画中です。関心のある方は、方法や費用など無料相談いたします(要予約)ので、お気軽に問い合わせ下さい。
     
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