膝関節疾患に対する再生医療の適応について
膝半月板損傷・断裂の疫学
世界的に見ますと、一般開業医を受診する半月板損傷の発生率は、年間1,000人中2人と推定されています (Belo et al. 2010)。日本人では、元々半月板が損傷しやすい円板状の人が多く、発生頻度は20~30人に1人程度と推定されています。関節内の軟骨や半月板を損傷して発症するのが変形性関節症、日本では通院している患者数だけで約800万人いると推定されていますが、通院していない潜在的患者さんを含めると2000万人を超えるという調査結果もあるほどです。
膝関節軟骨損傷の疫学
変形性膝関節症における関節軟骨損傷の合併頻度について、具体的な数値を示すのは難しいですが、変形性膝関節症の進行に伴い、関節軟骨の損傷はほぼ必ずと言って良いほど合併します。特に、初期の段階から関節軟骨の摩耗や変性が認められ、進行するにつれて軟骨の欠損や骨棘の形成などがみられます。また、外傷性軟骨損傷の潜在患者数は、米国で年間約50万人、日本では年間約1.3~1.6万人と推定されています。
バイオセラピー
損傷の程度が軽度でも、痛みの症状がヒアルロン酸の関節腔内注射を繰り返しても改善しない方に良い適応と考えます。以下の治療は自己血のサイトカインを用いて行うもので、主に局所投与します。
(濃縮)乾燥凍結血小板由来因子(PFC-FD)を用いた治療法
含有される主な因子:
PDGF(血小板由来成長因子)細胞の増殖、分化、遊走、生存を制御する
TGFβ(形成転換成長因子)血管網の発達した軟骨組織の形成を誘導する
bFGF(線維芽細胞増殖因子)線維芽細胞や血管平滑筋細胞の増殖を促進する
EGF(上皮細胞増殖因子)毛母細胞の活性化や細胞分裂を促す
濃縮乾燥凍結血漿由来因子(PDF-FC)を用いた治療法
含有される主な因子:PFC-FDとの違いは血漿を用いるため上記のサイトカインに加え、以下の3種類のサイトカインを含むため、炎症を抑える作用が期待できます。
HGF(肝細胞増殖因子)組織の再生や修復
IGF-1(インスリン様成長因子1)成長ホルモン様作用
IL-1Ra(インターロイキン1受容体拮抗因子)抗炎症作用
対象疾患
両者ともに関節疾患のみならず以下の疾患に適応があります。
スポーツ:テニス肘、ゴルフ肘、アキレス腱炎、靭帯損傷、骨折などの治療
関節症:変形性膝関節症、半月板損傷、膝靱帯損傷、鵞足炎、ランナー膝、ジャンパー膝
変形性肩関節症、肩関節唇損傷、五十肩、凍結肩、腱板損傷
変形性股関節症
その他:腰痛症、仙腸関節炎、手根管症候群、CM関節症、腱鞘炎、足底筋膜炎、足関節捻挫、腱板損傷、不妊治療など
皮膚症状:難治性潰瘍、褥瘡、重度火傷、薄毛治療など
脂肪幹細胞治療
自己の脂肪組織より抽出した幹細胞を培養して3000万から1億個まで増やし、膝関節腔内に局所投与する治療法です。幹細胞が産生する増殖因子や抗炎症性サイトカインにより、関節の半月板や軟骨の再生を図ります。
膝半月板断裂に対する自己脂肪幹細胞治療
膝の半月板断裂は放置しておくとほぼ全例、変形性膝関節症に進展し、将来的に人工関節置換術の適応となります。断裂した半月板を早期に切除する鏡視下手術もありますが、将来予後は不良と言われています。ただし、半月板断裂のタイプによっては、自己脂肪幹細胞治療の適応のあることがありますので、膝関節MRI検査によって、診断ができれば、治療の可能性が出てくるものと思われます。
半月板損傷タイプ別の幹細胞治療適応基準(○:適応、△:検討の余地あり、✕:適応外)
膝関節軟骨損傷に対する自己脂肪幹細胞、濃縮乾燥凍結血漿由来因子併用療法
関節軟骨は下図、黄色で示した部分に存在します。半月板は線維軟骨、関節軟骨は硝子軟骨でできています。軟骨細胞が損傷を受けると粘液の産生が減り、上下の関節面の摩擦が大きくなり、関節損傷が更に進行します。
関節軟骨の損傷部位の再生には、軟骨細胞が必要となります。脂肪幹細胞はそれだけでは、軟骨細胞に分化しませんが、TGFβ(形質転換増殖因子)を加えるとII型コラーゲンを産生する軟骨細胞に分化することが知られています。この幹細胞の性質を利用し、難治とされる関節軟骨損傷を治療します。TGFβは幹細胞自身も産生しますが、より高濃度にTGFβを供給するために、私どもは濃縮乾燥凍結血漿由来因子を用います。従来の脂肪幹細胞のみの投与と比べ、軟骨再生を期待できると考えております。
犀星の杜クリニック六本木