健常者から膵がん、肝がんの患者さんを判別する検診があります
現代医学において、がんの早期診断は最重要課題です。なぜなら、早期がんでは進行がんの治療のように過大な手術や高額な化学療法、放射線療法などが必要ないため、患者負担が少なく、かつ医療費を節減できること、そして治療成績が飛躍的に向上するメリットなどがあります。胃がんや大腸がんは高度な内視鏡技術を用いて、かなりな部分早期診断が可能となってきましたが、その他のがんに関しては未だに早期発見する手立てに乏しいと言わざるを得ない状況です。その中でも、特に膵がんや肝がんはあらゆる血液マーカーや画像診断技術を総動員しても、早期発見が困難であります。これらのがんはひとたび進行がんで見つかると致命率が高く、唯一、助かる方法は早期発見して早期に取り除くことのみであります。
1989年にイギリスで犬が飼い主の悪性黒色腫を知らせたという報告があったのをきっかけに、まず犬ががんの匂いを嗅ぎ分けるのではないかという研究が始まりました。犬の嗅覚受容体遺伝子は811個とヒトの396個の倍以上ありますが、犬はトレーニングに時間がかかる点、個体差や環境で結果が変化しやすい点、などが原因で普及を困難にさせているため、代わりになるものとして、線虫に目が向けられたのです。線虫の嗅覚受容機構は哺乳類に類似しており、受容体の数も約1200個と3倍多く、また線虫人口培養においてもクローンを保て安いので、性質が安定していて、結果が再現しやすいというメリットがあります。
2015年、九州大学味覚・嗅覚センサー開発センターの広津崇亮(現(株)HIROTSU バイオサイエンス社長)らががん細胞の培養上清液を用いて、線虫の走化性があることを確認したのち、ヒト血漿と尿を用いて検証したところ、早期がん、進行がんに関わらず10倍希釈の尿に最も線虫が反応したことを見出し、この結果が後のN-NOSEの開発に繋がりました。
線虫が反応するがん特有の匂いの正体は現在、解析中でまだ解明されてないそうですが、がん細胞のメタボローム(代謝物)のうち、揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds(VOCs))ががん患者さんの呼気や尿に表れることに注目しています。尿での研究はまだ少なく、肺がんでは2-Pentanoneが知られているに過ぎません。本検査ではがん腫の種類を同定できず、15種類(胃がん大腸がん肺がん乳がん子宮がんすい臓がん肝臓がん前立腺がん食道がん卵巣がん胆管がん胆のうがん膀胱がん腎臓がん口腔・咽頭がん)のがん腫が出す共通の匂いに反応することがわかっています。一つ一つのがん腫の出すVOCsが判明すれば、がん腫の診断が可能となり精度も増すことでしょう。一方、最近、開発された膵がんや肝がんの診断キットはこれらのがん腫だけに反応しない変異株を遺伝子改変でそれぞれ作製し、野生株で陽性となった検体で変異株が反応しなければ、そのがんであると診断するものです。15種類のがんでそれぞれ作製すれば、がん腫の特定がなされるということです。
実際のN-NOSE検査の精度を直近で見ますと、がんの患者さんをがんと診断する感度が86.5%、がんでない患者さんをがんでないと診断する特異度が90.8%となっております。ただし、健常者と思われる方でのがん発見率、あるいは誤診率の検証は未だなされていません。スクリーニング検査としての完成度を上げるためには必要と思われますが、がん検診を受診するきっかけになることは間違いありません。日本は先進国のなかで、がん検診受診率が20%程度と低いことはあまり知られていません。犀星の杜クリニック六本木でもみなと芝クリニックでもがん検診率を上げるために、本検査を広く活用しておりますので、お気軽にお問合せください。
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