クリニックブログ

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    体性細胞の再生について

    私たちの体はたくさんの種類の細胞(体細胞)によって形作られ,それらがもつ固有の機能が寄り集まって恒常性を維持しています.体細胞には寿命があり,役割を終えた細胞は新たな細胞に置き換えられます.そのスピードは組織によって異なっていて(表2).特に,肝臓では,肝細胞が障害を受けると細胞数が激減しますが,通常3日目から再生が始まり、3か月で約80%が修復され、残りが約半年から1年掛かって再生すると言われています.脂肪肝などで傷害を受けたあとの肝機能回復までには約1~3か月が目安とされています。一方,心臓を動かしている心筋や卵巣に含まれる生殖細胞の卵子は,生まれた後に増えません.このことは,あらゆる組織には,固有の特性をもつ細胞供給源があることを示しています.組織の中で生命活動の維持に必要な体細胞を供給している細胞を,体性幹細胞または組織性幹細胞といいます。現在、これらを用いて組織の再生を図る治療が行われています。組織再生の観点からすると、肝臓などは1回目の治療後3カ月目に肝再生の程度を判断して、2回目以降の治療を考慮するのが良いと思われます。

    2026.02.10

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    iPS細胞の成り立ちとクローンについて

    山中4因子 iPS細胞研究における最大の発見は,山中4因子と呼ばれる4つの遺伝子Oct4, Sox2, Klf4, cMycだけで,あらゆる体細胞が新たな多能性幹細胞(iPS細胞)になることを見出したことです。山中4因子により、メインスイッチが入って幹細胞の遺伝子発現制御機構が働き出すと,この外来性の山中4因子はもはや不要となり,体細胞だったときに眠っていた遺伝子群が活発に未分化性を維持するようになります.このように発生を巻き戻して未分化に戻す因子を,リプログラミング因子(再初期化因子)と呼びます。   ガードンの研究 ガードンの研究は、オタマジャクシの腸管の上皮細胞という、受精卵からかなり発生が進んで分化した体細胞の核を、核を取り除いた未受精卵に移植して、そこからもう一度オタマジャクシに発生させることに1962年に成功しました。腸の細胞をもう一度体中のすべての細胞をつくり個体を生み出せる状態に戻したので、これを体細胞のリプログラミング(再初期化)といいました。しかし、移植された核は、履歴を残したままですので、最初の受精卵の状態に戻せてはいません。完全に初めの状態に戻すリセット(初期化)とは異なります。 このガードンの方法で再初期化した細胞を用いると、元の細胞と同じ遺伝情報セットをもつクローンカエルが作れますが、「iPS細胞からはヒトのクローンは作れない」と言われています。厳密にいうとiPS細胞で卵子と精子を作り受精させて母体に入れれば、理論的に可能ることが必要ですが、その際減数分裂によって遺伝的な多様性が生まれるため、親と同一の遺伝子を持つクローンは生まれません。ただし、クローンに近い個体が誕生させることは可能で、しかもiPS細胞を経由することで、一度再初期化(リプログラミング)されるため、クローン特有の健康異常*が軽減される可能性はあります。 *:今まで報告されているものとして、胎盤早期剥離、肝臓がん、免疫系の異常があります。   iPS細胞からクローン   iPS細胞には、元の体細胞(例えば皮膚細胞)の履歴(DNAメチル化、遺伝子の突然変異)が消えずに残っているため、自然な受精卵と異なり、遺伝子の履歴は完全に白紙にはなっていません。履歴を別の言い方をすれば、発生や分化ののちに染色体や細胞に起こる変化(エピジェネティックな変化)のことで、履歴は受精卵の時点ではないものなのです。元の細胞ごとにエピジェネティックな変化が異なる履歴として残るため、作製された個体はクローンには近いけれども、完璧なクローンではないのです。従って、用いるiPS細胞ごとにその履歴が異なってしまうため、iPS細胞を使ってクローンを作製することは非常に難しいのです。また、iPS細胞由来の個体では、体細胞核移植によるクローン個体のような異常が出ない(出にくい)理由が、世代を経るときに、精子や卵子を形成する段階ではじめて、元の個体の細胞の発生や分化で染色体に刻印された履歴が、全部消されるためです。もちろん体細胞突然変異などは消えませんが、いわゆる発生の履歴は、次の世代に受け渡すときには、いったん全部消される。その上で、遺伝子に刷り込みという新しいエピジェネティックな変化が起こり、オスとメスに特有な初期条件を整えます。体細胞核移植によるクローンの場合は、受精というプロセスをとばしてしまうので履歴が残ります。iPS細胞は世代を越えればリセットされ、異常は出ないかもしれませんが、リプログラミングのまま、再生組織を体に入れるた場合、どうなるかははっきりとわかっていません。以上の理由から、iPS細胞の作製はエピジェネティックな変化が蓄積されていない若い時に行うのがベストだと考えています。   iPS細胞のがん化の問題   iPS細胞で最も懸念される事項は再生組織を人体に移植したあと、以下の理由によりがん化する恐れがあることです。一つは細胞に導入した山中4因子のうち特にc-Mycがん遺伝子の再活性化が懸念されています。そこでc-Mycを除いた3因子ではiPS細胞の樹立効率が極端に減少(0.2%)(4因子でも1%以下と言われている)してしまう問題があります。現在は他の遺伝子を導入してみる、あるいは化学物質を調合して投与して2因子だけでiPS細胞を効率に樹立する方法が開発されつつあります。また、導入用ウイルスベクターによるゲノムへの遺伝子挿入時の傷ががん化の原因となることがありますので、傷を回避する方法としてプラスミドなどの染色体に残らないベクターを使用する方法やセンダイウイルスを利用する方法があります。センダイウイルスはRNAウイルスであるため細胞の核内に侵入せず、ゲノム(DNA)に組み込まれない(安全性が高い)ため遺伝子に傷がつきにくく、効率的な遺伝子導入が可能、そしてヒトに対する病原性がない利点があります。つまり、導入した遺伝子が一度作ったタンパク質が引き金となり、iPS化が進んでしまえば、導入した遺伝子はいらないと言えます。当院契約の細胞加工施設はこの方法を採用していますので、がん化の恐れは少ないと言えます。その他、考えられる危険因子として分化しきれなかった未分化のiPS細胞が最終製品に残っている場合、移植後に増殖して腫瘍になる可能性と一度分化させた細胞が何らかの条件で先祖帰り(iPS細胞に戻ってしまう)して腫瘍になる可能性があります。どちらの場合でも、移植した後も定期的に移植部位に腫瘍が発生していないかチェックすることで早期発見すれば、問題ないと考えます。

    2026.02.10

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    がんと免疫

    リンパ球細胞のなかでもがん細胞を殺すのはナチュラルキラー(NK)細胞とキラーT細胞の2種類ですが、他にも両者の中間的な細胞が存在します。当院で行っている免疫療法はNK細胞療法です。 NK細胞療法 がん細胞はMHC抗原の発現を低下あるいは消失して免疫逃避する性質があるので、MHC抗原による感作を不要なNK細胞は、直接的にがん細胞を見つけ出すと、その場で殺傷することができます。がん細胞に対する殺傷能力は高く、NK細胞の活性度が高いと短時間で殺傷することができます。   NKT細胞療法 NKT細胞はNK細胞とT細胞の両方の性質を持ち、どのような抗原を持つがん細胞でも殺傷します。他のリンパ球細胞に比べ細胞数が少ないので(リンパ球全体の0.1~0.01%)、培養に時間がかかり、しかも寿命が短かいため、何度も繰り返し治療することが必要です。最近はiPS細胞をNKT細胞に分化させ、大量に培養する研究が進んでいます NKT細胞標的治療 成分採血で採取した単球(樹状細胞の前駆細胞)を体外で培養して樹状細胞とした後、樹状細胞のCD1dという分子に糖脂質「α-ガラクトシルセラミド(α-GalCer)」を結合させて『α-GalCerを提示した樹状細胞(α-GalCer-DC)複合体』を作製し、それを体内に点滴で戻します。NKT細胞はこの複合体をinvariant T cell receptor という受容体で認識すると、NKT細胞が一斉に活性化し、インターフェロンγというサイトカインを多量に放出して、主にNK細胞やキラーT細胞(CD8+ T細胞)を呼び出してがん細胞への攻撃を強力に促します。 キラーT(CTL)細胞療法 がん細胞の殺傷力は持っているのですが、ヘルパーT細胞から指令を受けて初めて活動をはじめるという特性があります。そのまま活性化してもがん細胞を殺傷することはできません。殺傷すべきがん細胞を教え込ませれば殺傷できます。がん細胞を教え込む方法として、患者さん自身の腹水や胸水中にあるがん細胞を分離し、採血して集めたTリンパ球と混合し、抗CD3抗体とIL-2を添加して培養することで、がん細胞に特異的なCTLを増やし、体内に戻します。   その他の免疫細胞治療 『樹状細胞』 樹状細胞(Dendritic Cell=DC)とは、体内でがん細胞を直接攻撃するTリンパ球に、がんの目印(がん抗原)を教え、攻撃の指示を与える免疫細胞です。患者さんの血液から単球を分離し、培養すると樹状細胞に分化します。患者さんのがん組織をすりつぶして作製したエキス(がん細胞のタンパク質)を樹状細胞が貪食します。 樹状細胞には、がん細胞のタンパク質が取り込まれると、それが樹状細胞内で分解され、患者さんのがんの情報(抗原)として樹状細胞に記憶されます。すると樹状細胞は記憶した抗原を表面に目印として出します(抗原提示)。それを患者さんの体内に戻すことで、「目印」を頼りにがん細胞だけを集中的に攻撃するTリンパ球(細胞傷害性Tリンパ球)を効率よく誘導することができるのです。 こうした、がん攻撃の「司令塔」ともいえる樹状細胞を用いて、がんをより効率的に攻撃することを目的とする治療法を、樹状細胞ワクチン療法(DCワクチン療法)といいます。   『αβT細胞』 がんに対する攻撃力がもっとも強い細胞のひとつであるTリンパ球を抗CD3抗体とIL-2とともに培養活性化、増殖後に、体内に戻す治療法です。Tリンパ球の多くはαβT細胞であるため、この名前がついています。αβT細胞はがん細胞全般に対してMHC分子を介して提示されたがん抗原を認識し、攻撃する免疫細胞です。よってこの治療法は免疫細胞の働きを総合的に高める効果があります。本療法は早期がんから進行したケースまで幅広く適用されますが、特に近年では、抗がん剤と併用することで、患者さんの体力や体調を良い状態で維持し、がんと闘う力を高める目的や、手術後の再発予防を目的とした使い方で、より効果を発揮しやすいと考えられています。 『γ/δT細胞』 Tリンパ球中に数%しか含まれていないγδT細胞を活性化、増殖させ、体内に戻す治療法です。γδT細胞は、がん細胞など異常な細胞全般を多様な方法で認識して攻撃する免疫細胞で、特に一部の抗体医薬や、骨腫瘍・骨転移治療薬のゾレドロン酸を使っている場合などに、併用することで相乗効果が期待できます。

    2026.02.10

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