なぜ、がんに対するキラーT細胞治療が効かなくなるのか―その耐性メカニズムとNK細胞治療が救世主となる理由
腫瘍内異質性 がんには腫瘍内異質性と称する、同一腫瘍内に複数の異なる細胞亜集団(遺伝子型、表現型)が存在するため、単一標的療法では制御が困難です。がん細胞では自己を示すMHCクラスI抗原が低下するため、NK細胞ががん細胞を非自己と認識して攻撃します。更に、細胞ががん化やウイルス感染などのストレスを受けると、MICA、MICB、ULBPといったNKG2Dリガンド(NKG2DL)を細胞表面に発現します。NK細胞はこのようにMHCクラスIが低い」かつ「NKG2DLが高い」という細胞を、異常な細胞(標的)として確実に認識し、排除します。しかし、がん細胞の中にはNKG2DLをシェディングにより、可溶型に変換し放出させることにより、NK細胞からの免疫回避をします。現在は減弱したNKG2DLを活性化するために、5-FUやバルプロ酸ナトリウム(HDAC阻害作用)を併用する方法も考慮されています。 腫瘍抗原の喪失 腫瘍抗原にはがん細胞だけに存在する「腫瘍特異抗原(ネオアンチゲン)」と、正常細胞にも存在するがん細胞で過剰に発現している「腫瘍関連抗原」の2種類があります。 がん細胞は成長する過程で、遺伝子変異が起こりやすく、腫瘍抗原が変化するため、T細胞(キラーT細胞やCAR-T細胞)はこれらの抗原を認識することができず攻撃できません。腫瘍関連抗原であるCD19、HER2やClaudin18.2を標的としたCAR-T細胞療法やキラーT細胞療法の効果がしばしば減弱するメカニズムです。一方、ネオアンチゲンはがん細胞の遺伝子変異によって生じる、正常細胞には存在しない異常なペプチドで、MHCクラスI分子を介して細胞表面に提示されます。キラーT細胞(CD8陽性T細胞)はこれを異物と認識し、攻撃します。がん細胞は成長する過程で、MHCクラスI分子発現を低下させ、ネオアンチゲンを表面に提示させないようにして、免疫逃避を図ります。しかし、MHCクラスI分子発現が低下した細胞はNK細胞に認識され餌食になります。 腫瘍微小環境における免疫抑制細胞の動員 がん細胞は単独で存在するのではなく、周囲の正常細胞を味方につけて、免疫細胞の活動を強力に抑え込む「免疫抑制的」な環境(腫瘍微小環境)を構築します。がん細胞は制御性T細胞(Treg)を積極的に呼び寄せ、キラーT細胞の活性を直接的に阻害したり、抑制性サイトカイン(TGF-βやIL-10)を放出させたりして、がん細胞に対する免疫反応が起こりにくくします。Treg同様、強力な免疫抑制能力を有している骨髄由来抑制細胞(MDSC)は、未熟な骨髄系細胞の集団で、通常は炎症時などに一時的に現れますが、がん細胞が出す因子によって骨髄から動員され、腫瘍組織やリンパ組織で増殖します。MDSCは、活性酸素種(ROS)、一酸化窒素(NO)などを産生し、T細胞の増殖や機能を麻痺させて、がんに対する免疫反応を抑制します。NK細胞に発現するFas ligandはTregやMDSCに発現するFAS抗原を認識し、アポトーシスを誘導し排除します。 一方、マクロファージは本来、異物を貪食し排除する細胞ですが、腫瘍環境下ではがん細胞の生存を助けるM2型と呼ばれるタイプ(腫瘍関連マクロファージ:TAM)に変化します。TAMは血管新生を促進してがん細胞への栄養供給を助けるだけでなく、免疫抑制因子を出してT細胞の攻撃をブロックします。NK細胞のエクソソーム中にはM2マクロファージ(免疫抑制型)をM1マクロファージ(免疫刺激型)へ分化促進するmiR146a,21,155が含まれております。 PD-L1発現によるT細胞の免疫ブレーキ 活性化したT細胞の表面には、PD-1という受容体が発現します。これは本来、過剰な免疫反応で正常組織を傷つけないためのブレーキスイッチです。がん細胞は、このスイッチを押すためのリガンドであるPD-L1という分子を自らの表面に大量に発現します。キラーT細胞ががん細胞を認識して近づいても、がん細胞側のPD-L1がT細胞側のPD-1と結合すると、T細胞内部に抑制シグナルが伝わり、攻撃能力を失ってしまいます。このような状態はNK細胞では解決できないため、免疫チェックポイント阻害剤により、がん細胞のPD-L1をブロックして、免疫ブレーキを解除する必要があります。 慢性的な抗原曝露によるT細胞疲弊遺伝子発現 がん組織内では、常に抗原が存在するため、T細胞は慢性的に刺激を受け続けます。このような環境下では、T細胞に内在する疲弊遺伝子(BATFやTOX)が発現し、「疲弊」と呼ばれる状態に陥ります。疲弊したT細胞は、PD-1だけでなく、TIM-3やLAG-3といった複数の免疫応答抑制性受容体を高く発現し、増殖能力やサイトカイン産生能力、細胞傷害活性を失います。NK細胞の分泌するエクソソーム中には疲弊遺伝子の発現を抑制するmiR155が存在し、T細胞の疲弊を回避して、免疫能を回復させます。 免疫抑制性サイトカインの放出 がん細胞は自ら、あるいは周囲の細胞(腫瘍微小環境)に働きかけて、免疫を抑えるサイトカイン(情報伝達物質)を撒き散らします。TGF-β(トランスフォーミング増殖因子ベータ)はその代表格で、キラーT細胞やNK細胞の働きを直接抑えるだけでなく、線維芽細胞を活性化して物理的なバリアを作らせ、免疫細胞ががん細胞に到達できないようにします。IL-10もまた、抗原提示細胞の機能を低下させ、免疫応答全体を沈静化させる方向に働きます。また、これらのサイトカインは樹状細胞を未熟化し、抗原提示能を低下させることが知られています。
2026.04.07
