我々のがん性疼痛に対する治療の試み
進行期のがん細胞は周囲組織を浸潤破壊して増殖する過程で、骨や神経に浸潤し、いわゆるがん性疼痛を引き起こすことが知られております。実に進行がん患者さん全体の7割から8割の方が、がん性疼痛に悩まされるというデータもあります。現在、行われているがん性疼痛治療の主流は外来通院や自宅への訪問診療でも継続可能な薬物療法ですが、消炎鎮痛剤は肝臓や腎臓、あるいは血液への副作用などで長期に渡る高用量の治療は困難な場合があります。一方、医療用麻薬などは副作用が比較的少なく、連用が可能ですが、使用しているうちに耐性が付いてきて用量が増えてしまうことがよく見られます。麻薬ですので用量が増えますと、意識レベルが低下し、場合によっては昏睡状態になって却って終末を早めてしまう可能性もあります。痛みを取り除くことを重視する緩和ケアも必要な場合もあると考えますが、意識が最後まであって意思疎通ができることを望まれる家族もおられることと思います。私たち、再生医療・がんサポートチームは間葉系幹細胞や幹細胞培養上清液が糖尿病性神経障害や関節リウマチの痛みに効果があるという研究報告に基づき、再生医療ががん性疼痛もコントロールできないかと考えました。しかし、以前より、幹細胞が産生する細胞増殖に関わるサイトカインやアポトーシスを阻害するサイトカインは、がん細胞を増殖させてしまう恐れがあるので、現在、がんに罹っている患者さんや治療中の患者さん、あるいは治療後でも再発の恐れのある患者さんには投与が禁忌であるとされています。そこで、まず、この問題を解決するために私たちはヒトのがん細胞株を用いて、がん細胞の増殖を抑制する幹細胞培養条件を探索し、見出しました。その幹細胞培養上清液を用いれば、安心してがん患者さんにも疼痛を抑える治療ができるかも知れません。
最近、ステージIV期の胆膵系悪性腫瘍の患者さんに当該幹細胞培養上清液を投与する機会がありました。

2023年4月より2024 年3月中旬まで化学療法施行。全身状態の低下で化学療法中止。上清液を3月下旬より開始5月始めまで10mgを計3回投与。5月8日まで腫瘍マーカーの上昇が抑えられていたが、5月8日以降、胆管炎の併発もあり、再上昇した。

2023年4月より2024 年3月下旬まで化学療法施行。その後、全身状態悪化に伴い、白血球数は減少傾向であったが、上清液を3月下旬より開始してから単球数*の上昇傾向が見られ(→)、免疫能が回復してきた可能性が示唆された。4月に抗がん剤の副作用による白血球減少のあと、胆管炎を併発した。
*:単球数を免疫能の1指標とした
図で示すように、腫瘍マーカーの急激な上昇はなく、単球数の回復が見られたこと、がん性疼痛に対しオキシコンチンを投与されていましたが、上清液開始前、1日3回が、開始後1日1回まで減じることができました。上清液投与により免疫能の回復、疼痛コントロールに一定程度の効果があったと推測されます。
犀星の杜クリニック六本木
